第十四章
都市の中の、全て猫が集まったかのような数が、天猫の周りや見える場所で寝ていた。同じ仲間と思い。心を落ち着かせようとしているのだろう。今まで来た猫も、初めての場所で不安な気持ちも感じるはず。そして、今まで住んでいた所には帰られないと聞かされ、それだけでなく、死期も近いと言われれば、体が疲れるまで暴れ、騒ぐのが普通なのだろう。そして、疲れて眠ると、同じように来た猫達が、心を落ち着かせようと集まったはずだ。まあ、起きた後は、人間なら自己紹介でもするだろうが、猫なら、マタタビの森でも連れて行くと思える。その森だけが縄張りが無いと知らせる為もあるはずだ。
「鏡。起きたようね」
「えっなん」
「しっ」
静かは、人差し指を唇に付け、鏡の言葉を止めた。
「何が起きた」
「もう少し声を落として、もし、天ちゃんが起きる前に周りの猫が起きたら大変よ」
「そうだな、考えたく無い事が起きそうだな」
「そうでしょう」
「だが、何が起きた。まるで、猫の絨毯のようだぞ」
「そうね。でも、ゆっくり寝かしてあげましょう」
「そうだな」
「ねえ」
「何だ」
「竜を倒せそう」
「難しいな、竜以外なら大丈夫だが、竜のウロコは硬い」
「どうするの?」
「難しい考えだが、天と静かで、竜を惹きつけてもらい。俺が竜の下に入り腹を裂く」
「無理よ」
「それしか考えられない」
「鏡お兄ちゃんが、そう言うなら頑張るよ」
「天ちゃん。起こしてしまったわね。ご免ね。うるさかったでしょう」
「違うよ。うるさく無かったよ」
「おおお、どうしたのだ。猫が帰って行くぞ」
「何でも無い事だから気にしないで、挨拶だよ。縄張りとか情報を知らせに来ただけ」
「そうだったの起きたら猫が沢山いたでしょう。少し怖かったわよ」
「でも、事情が合って、この都市に来るから、それで、心を落ち着かせようと集まってくれる。全て優しい猫だよ。それだけで無いよ。二人の話を聞いて、怖い思いさせてごめんねって、謝っていて。そう言われたよ」「ごめんね。怖いなんって言ってね」
「いいよ。分かってくれれば、でも、怖い思いをさせて、ごめんね」
「天、済まない。聞いているとは気が付かなかった。済まない。そう伝えてくれないか」
「うん。ありがとう。会ったら伝えるよ」
「天、ありがとう」
「鏡お兄ちゃん。静お姉ちゃん。もう、気にしなくていいからね」
「うん。分かった」
「ありがとう。天ちゃん」
「天。そろそろ戦いに行くが大丈夫か、出られるか?」
「何時でもいいよ」
「私も、何時でもいいわ」
「分かった。輝さんに、挨拶したら出かけよう」
その話が聞こえていたのだろうか、輝が現れた。
「戦いに行くのね」
「はい。私達が居た。あの場所に連れて行って下さい」
鏡は、この都市に来て初めてだろう。真剣な表情で心の思いを伝えた。
「そう約束だったわね。都市の登録が済んでいるから、何時でもいいわよ」
「登録?」
「そう、扉に手を押し付けたでしょう。それの事よ」
「ああ」
「移動テーブルから降りて、私の後を付いて来て、来た時と同じ部屋に行くわ」
「輝さん」
「ああ、移動テーブルでしょう。心配しなくていいわ。倉庫に移して置けば、脳波で繋がっているから呼べば直ぐ来るようにしておきます。慣れれば考えただけでも来ますよ。それでは、部屋に行きましょう」
「お願いします」
鏡が代表のように頭を下げた。そして、鏡達は、戦いに行く気持ちだからだろう。周りを見ず、輝の背中だけを見ているように思うが、そうで無いだろう。死ぬかもしれないのだ。今までの思い、戦いの後の事。一番の考えは、どのようにして倒すかだろう。
「その扉よ。扉に入れば目的の場所に着きます。戦う気持ちが出来たら入ってください」
鏡が真っ先に入ろうとした時だ。静が鏡の服の一部を掴んだ。今までのお詫びとお礼の気持ち表さなければならない。それが、礼儀と感じたのだろう。頭を下げ簡単な挨拶をしていた。その脇をすり抜け、天猫が真っ先に扉に向かった。それに、輝は気が付いた。
「天猫さん。帰ってきてよ。お父様の写真とか、まだ、見せて無いから見ましょう。天猫さんのお父さんの思い出も教えてね。後、墓の前の花も一緒に増やしましょうね」
「俺は、死ぬ気は無い。帰って来るよ。父の話を楽しみしています。行って来るよ」
「はい。気をつけて」
「腹が空いたら帰って来るよ。その時はよろしく」
「輝さん。心配しないで、帰って来るから、今度はゆっくり入浴させてね」
「何時でもどうぞお待ちしています」
輝は、天猫が育ての親と姿が同じだからだろう。亡くなった事を思い出したのだろうか、それとも、死期が近い事を思い出し。これで最後と思ったのだろうか、涙を堪えていた。それが、分かったのだろう。静と鏡は、本心で無いだろうが、冗談のような言葉を話し終えると、笑いながら扉の中に入った。
「天。この都市に来る理由がある。前、そう言っていたな。天も理由があったのか?」
「そうよ。天ちゃん。まさか、私達に言えないような事で無いわよね」
「おかしな事を言うね。連れて来られたので無いし、誘われたので無いよ。天や鏡お兄ちゃん達は来たくて来たのだよ。それ、忘れたの」
「そうね」
「そうだったな、済まない。忘れてくれ」
「気にして無いから、いいよ」
天猫の気持ちを考えていたからだろう。回りの雰囲気が変わったのに気が付かなかった。でも、敵意では無かった。それでも、不気味と言うか不快は感じられた。
「なんか、湿地帯を歩いているみたいね。硬いような軟らかいような場所ね。それに、洞窟の中を歩いているように薄暗いわ」
「そうだな。考えたく無いが、足元から根っこが動き纏わり付かれそうだな」
「嫌な事を言わないでよ。でも、そうね。小さい根っこの上を歩いているようね。
前、体があった場所も同じだった?」
天猫は、二人に問いかけた。
「憶えて無い。体を動かすのに必死だったしなぁ」
「私、気持ち悪いから、あれを呼ぶね」
「ああ、そうだな」
鏡は、移動テーブルの事を完全に忘れているようだった。もしかしたら、静が言わなければ思い出さなかったに違いない。
「うっちゃん。来て」
「えっ、何だ、それは、何を考えている」
移動テーブルは、静の右側から現れた。そして、頭の高さから足元くらいまで落ち、そのままの高さで前方の足元に移動した。それは、まるで、意識があるように自分の場所を教えて、乗り安いように移動したと感じられた。
「ありがとう」
静は、現れた行動に驚き、礼儀を言ってしまったが、それは、静が考えた事、と言うか一瞬の思案だった。先ほど、「うっちゃん」と名付けたのは、突然に現れるだろうから、私に一度姿を見せ、乗れる高さまで決め、自分を乗せて浮き上がる。その最後の浮きの「う」だった。そのように考えたのだ。その様子を見た鏡も、恥ずかしいのだろう。誤魔化すように大声を上げた。
「来い」
一言だけだった。
「ゴツ」
「痛てぇえ」
「何をやっているのよ。馬鹿ね」
移動テーブルは真後ろから速度を落とさず後部に当たった。鏡は何も考えてなかったのだろう。移動テーブルは脳波を感じるまま、進んできたように感じられた。そして、笑われたからだろう。鏡は視線を静かに向けると、ブランコに乗るように座って笑っていた。
「早く乗りなさいよ」
「今乗る。おい、止まれ」
鏡は、何度も足を上げて乗ろうとしていた。だが、滑るように避けるのだった。それで、指示を伝え。やっと乗る事が出来た。
「乗れたわね。鏡、生きている物と考えて、名前を付けてあげてないから逃げるのよ」
「そんな恥ずかしい事が言えるか」
鏡は、静に聞こえないように愚痴を吐いた。
「鏡、今、何か言った」
「何も言う訳がないだろうぉ」
「天ちゃん。そうなの」
「言ったよ。静お姉ちゃん」
「天、言ったら殺すぞ」
「何て言ったの。鏡、聞こえ無かったわ。私の悪口でしょう。そうでしょう。天ちゃん」
「違うよ。戦い前の意気込みだよ」
「そうなの?」
不満そうに、天猫に話を掛けた。
「当たり前だろう」
鏡が大声を上げた。
「そう。それは、もう、いいけど、何で乗ったり降りたりを繰り返しているの?」
「別にいいだろう。性能を試しているだけだ」
静は、(何をしているのだろう)鏡の、様子を見て、そう考えた。まるで初めて移動テーブルを見た時と同じように、遊んでいるとしか思えないからだ。だが、そうでは無いだろう。真剣な表情で、両腕を大きく左右に広げバランスを取っているのだ。まさか、鏡の移動テーブルの上は滑るようになっているのか、それとも、移動テーブルが乗せるのを拒否して斜めに傾けているのだろうか、だが、その二点は考えられない。そう思案している時、
「うぁあああああ」
鏡は、大声を上げて、移動テーブルの上から落ちた。
「鏡。まさか、乗れないの?」
「そうだ」
鏡は、心底から不愉快そうにうなずいた。
「何故よ?」
「分かれば苦労しないのだがなぁ」
「もう一度乗ってみて」
鏡は、乗ったが、また、落ちてしまった。その様子を見て、静はうなずいていた。
「あああ、何故か、分かったかも。試しに、もう一度乗ってみて、今度は何か呟いている言葉を大きな声で言ってみて」
「乗るから止まれ」
移動テーブルは、鏡の膝の高さで止まった。
「そうそう、そのままだ。動くなよ」
片足を乗せると、自動調整の動きと、鏡の指示で動いたり止まったり繰り返した。
「動くな、ああ、右を上げろ。うぁあああ」
移動テーブルは落ちないように微妙に動いたのだが、鏡の指示で大きく右側を上げた。移動テーブルは指示の通りしているのだが、大きく傾いた為に、鏡は落ちた。
「簡単な事よ。移動テーブルを信じればいいの」
「信じなければ、乗り物として使いたい。そう考えるはずが無いだろう」
「そう言う事で無いの」
「なら何だ」
「うっちゃんは、落ちないように微妙に動いているの。でも、鏡が指示を与えるから傾けるの。それも、どの位まで傾けるか指示が無いから落ちるまで傾けるのよ」
「無言なら良いのだな」
自分が悪いのだが、怒りが込み上がってきた。
「鏡、お酒を飲んで酔っている時は乗れたのよ」
「それは、確かに記憶がある」
「そうねぇ。あああ、歌を歌いながら乗ってみて」
「えっ、歌」
「別に声に出さなくてもいいわよ」
「試してみるよ」
不振そうな表情をしながら口を開いたり閉じたりをしていた。歌を歌っているのだろう。今回の移動テーブルの動きは指示が無いからだろう。細かい左右の動きだけだった。
「乗れたでしょう。鏡。それでいいのよ」
「・・・・・・・」
鏡は、声を出さずに、何でもうなずいていた。恐らく歌を歌っているのだろう。その真剣な様子を見て、静は、それ以上、話を掛けるのを止めた。
「天ちゃん。あの竜を倒す、何か良い考えある?」
「あの硬い甲羅が、俺の牙で砕ければ倒せるはず」
「そう、そうね。今の大人の牙なら砕けるかもね」
「大丈夫だよ。安心して、静お姉ちゃん」
「うん。でもね。先に鏡の考えを試してみましょう」
「いいよ。どんな考えなの?」
「簡単なのよ。私と天ちゃんで、竜を引き付ける囮になるの。その間に、鏡が竜の腹の下に入り、剣で腹を裂くのよ。腹なら剣で裂けるはずだって言ったわ」
「今度は、天だけで無く、静おねえちゃんも、鏡お姉ちゃんも飛べるから良い考えかもね」
「上手く行けば、後は、私と天ちゃんで竜の傷を広げれば勝てるわ」
「でも、静おねえちゃん。一番の問題は、鏡お兄ちゃんが、移動テーブルを上手く操作が出来るかだね。今の状態では竜は無理、小物の獣も倒せないよ」
「鏡、聞いているの?」
「早く乗りこなす為に真剣なのだね」
「駄目ね」
静と天猫は、不思議そうに鏡の様子を見続けた。簡単なはずなのだ。何故、ただ乗っているだけで、機械が調整してくれるはずなのに落ちるからだ。静は、上手く乗れる対策は、何度も言った。声に出さないで乗てって、どのように動かすか考えるのはいいけど、声に出さなければ落ちないように乗れると、伝えたはずなのだが、性格なのだろうか、声を上げて、移動テーブルと一人喧嘩をしてしまう。
「鏡の事だから直ぐ覚えると思うけど、もし、獣が襲って来たら頼むわね」
「うん。分かっているよ」
「まあ、私が全て倒すけどね」
「そうだね。静お姉ちゃんは強いからね」
鏡の真剣な様子とは違い。静と天猫は鏡の様子と昔の思い出でも話しをしているのだろう。笑いながら飛び続けた。だが、それは、誰かが亡くなる暗示にも思えた。まるで、悲しさを忘れる為に、生前の楽しい思い出を話しているように思えるからだった。